矯正歯科

大人の歯列矯正、やめたほうがいい?

大人の歯列矯正はやめたほうがいいと一部で言われるのは、SNS上で聞いた噂が原因であったり、治療期間の長さや高額な費用が理由という方もおられます。歯科医師の立場から見れば、歯並びを整えることは見た目の美しさ以外に、虫歯や歯周病の予防にもつながる治療です。それでもなお、「大人の矯正はやめたほうがいい」という声があるのはなぜなのでしょうか。

歯列矯正をする前に知っておきたいこと

歯列矯正前に知っておきたいことは、

  • どうして大人の矯正をやめたほうがいいと言われる?
  • 大人が矯正をするリスクは?

この二つです。

どうして大人の矯正をやめたほうがいいと言われるの?

やめたほうがいいと言われるのは、過去にうまくいかなかった経験を持つ人がいるためでしょう。どのような治療にも、得られる効果がある一方、リスクも存在します。

大人の矯正も例外ではなく、治療期間が長く、装置による痛みや不快感を伴うなどのリスクがあります。そうした負担を考えると、そこまでして治療をする必要はないという意見が、大人の矯正はやめた方がいいとされる理由なのかもしれません。

大人が矯正をするリスクは?

  • 矯正特有の痛みが生じることがある
  • スペースが足りずに抜歯を行う可能性がある
  • 矯正器具の選択によっては見た目の変化が起きる
  • 歯肉退縮や歯根吸収が起きる可能性がある

矯正特有の痛みが生じることがある

歯列矯正では歯を少しずつ動かすために痛みが出やすく、最初に凸凹している歯並びを整える処置(レベリング)で強く感じることがあります。装置の調整直後から2〜3日は痛みが出やすいですが、徐々に落ち着いていきます。痛みの感じ方には個人差があります。

抜歯を行う可能性がある

歯列矯正では、歯を動かすためのスペースが足りない場合に、抜歯が必要になることがあります。どの歯を抜くかについては、歯並びや親知らずの状態によって異なります。

特に、親知らず以外の歯を抜くことに抵抗感を覚える方もいるかもしれません。抜歯の提案があった場合は、治療を始める前にそのリスクや理由について医師としっかり相談して納得してから開始することが大切です。

矯正器具の選択によって見た目の変化が起きる

歯列矯正をすると歯並びは整いますが、治療中の装置の見た目に違和感を感じることがあります。特に社会人の場合、見た目が仕事に影響することもあるため、矯正中の見た目を軽く考えていたことで途中で後悔してしまう人もいます。

唇側のワイヤー矯正は目立ちやすいですが、舌側につけるワイヤー矯正、目立ちにくいマウスピース矯正、短期間で歯並びを整えるセラミック矯正など、見た目に配慮した治療法も増えています。

見た目の変化が気になる場合は、こうした選択肢を検討してみるのもおすすめです。

歯肉退縮や歯根吸収が起きる可能性がある

歯肉退縮とは、歯茎が下がり歯の根元が露出する状態で、虫歯や歯周病、歯の脱落リスクが高まります。強い力が歯にかかることで起こりやすいため、歯列矯正も原因の一つです。

歯根吸収は、歯の根が短くなって歯が抜けやすくなる現象で、こちらも矯正による力が原因で起こることがあります。

歯列矯正で失敗するケース

該当する人 理由
毎食後の歯磨きやセルフケアができない人 矯正中はプラークがたまりやすく、虫歯や歯周病のリスクが高いため
虫歯・歯周病が重度の人 治療の妨げになり、矯正によって悪化する恐れがあるため
強い痛みに極端に弱い人 装置の装着や歯の移動に伴う痛みに耐えられない可能性があるため
近く引っ越し予定があり通院が難しい人 継続的な通院と調整が必要なため
医師の指示を守れない人 治療が計画通りに進まず、効果が出にくいため
咬み合わせより見た目ばかりを重視する人 機能面を無視した治療は健康を損なう恐れがあるため
口腔疾患があり矯正に不向きな人 治療によって症状が悪化するリスクがあるため
妊娠中・授乳中で体調が安定しない人 ホルモンバランスの変化などで治療の影響を受けやすいため

噛み合わせに問題が起きた

見た目を優先し、噛み合わせを考えない不十分な矯正治療を行った結果、顎関節に大きく負担がかかります。痛みや違和感が出たり、咬み合わせが大きく乱れてしまったケースがあります。

顔の印象が悪くなった

歯並びが整ったけれど矯正後に顔が面長に見えたり、ほうれい線が目立つなど、フェイスラインや表情の変化によって以前より見た目が気になると感じる方もいます。

虫歯が増えた

矯正治療中にしっかりと歯磨きやメンテナンスを行わなかったために虫歯が進行し、神経の治療や抜歯が必要になることもあります。装置の周囲は特に汚れがたまりやすいため注意が必要です。

矯正治療には継続的な通院や管理が欠かせないため、これらに該当する場合は矯正治療が適しているか熟考する必要があります。

矯正治療とは

矯正治療の目的は先述しましたが見た目のみではありません。

矯正は見た目の改善以外に目的あり

歯列矯正は見た目を整えるだけでなく、正しくない咬み合わせである不正咬合を改善する医療行為です。

  • 歯がガタガタしている叢生(そうせい)
  • 前歯が出ている出っ歯
  • 下の顎が上の顎より前に出ている受け口
  • 奥歯を噛むと前歯が閉まらない開咬

不正咬合は、歯の喪失や歯周病、感染症にかかりやすく、全身疾患のリスクを高めることから、健康維持のためにも必要と言えます。

歯を喪失するとどうなるの?

咬み合わせは歯を長く健康に保つために非常に重要で、正しい咬み合わせと適切なケアを続けていれば、年齢を重ねても自分の歯でしっかりと食事を楽しめます。しかし、咬み合わせが悪かったり歯のケアを怠ると、将来的に歯を失い、入れ歯の生活を余儀なくされることもあります。

実際に、80歳で20本の歯を保っている8020運動の達成者には、反対咬合や開咬といった噛み合わせの悪い人は含まれていないという調査結果があります。不正咬合は特に歯を失うリスクが高く、正常な咬み合わせに比べて歯の寿命に悪影響を及ぼします。

つまり、不正咬合を治すことは、将来にわたって自分の歯で快適に食事をするために欠かせない大切な治療です。

子供の矯正と大人の矯正の違い

海外では大人になってから矯正が必要にならないよう、子供のうちに矯正を受けるのが一般的で、日本でも歯列矯正は子供のうちにするというイメージを持たれる方も多くす。では、なぜ子供の矯正が重視されるのか、それについて理由は主に2つあります。

1. 歯を綺麗に並べるスペースが確保できる

子供は顎の骨なども成長途中であるため、それを利用して歯並びのスペースを確保できます。成長途中の子供は顎を広げる治療が可能で、それにより将来的な抜歯を回避できるケースもあります。

2. 新陳代謝が活発である

子供の歯は動きやすいという点です。大人に比べて新陳代謝が活発なため、歯の移動がスムーズで、矯正の効果も出やすいからです。

大人の矯正はスペースを作るために歯を抜くことが多いですが、子供の矯正は成長を利用して顎を広げる治療が中心です。このように子供と大人の矯正は方法も目的も異なる、別の治療と言えます。

矯正治療中の生活

歯列矯正中は装置を装着する関係上、多少の不便さを感じることがあります。たとえば、ワイヤーを使ったマルチブラケット矯正では、食べ物が歯に詰まりやすくなったり、歯磨きに時間がかかったり、カレーやコーヒーといった色の濃い飲食物は着色しやすいため控える必要が出てきます。

一方、インビザラインやスマーティーなどのマウスピース矯正では、食事のたびに装置を外して歯磨きする必要があり、間食がしづらくなります。

制限はあるものの、矯正装置の交換前に好きな食事を楽しんだり、間食制限をダイエットに活かすなど、デメリットと捉えず前向きに捉えることで矯正生活を快適に乗り切ることができます。

後悔しない矯正をするためのチェックポイント

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更に押さえるべき具体的なポイント

  1. 見た目を治療する以外に、噛み合わせの改善を希望するかどうかも含めて判断しましょう。
  2. 治療方針や費用説明が明確で、豊富な症例数であるクリニックか確認して治療しましょう。
  3. 歯を動かす治療(動的治療)とその後の保定(静的治療)は長期スパンであると考えましょう。
  4. 仕事、家庭、趣味などのライフスタイルに両立できるかを具体的にイメージしましょう。

まとめ

歯列矯正により噛み合わせが整い、歯並びが美しくなるだけでなく、歯磨きがしやすくなり、虫歯や歯周病のリスクも軽減されます。更に、人前で自信を持って笑えるようになるなど、見た目や健康面で多くのメリットがあります。

その一方で、治療には時間がかかり、定期的な通院やメンテナンスも必要になるため、負担を感じる方も少なくありません。矯正がご自身に本当に合っているか、信頼できる歯科医院かどうかをよく確認し、納得したうえで治療を始めることが重要です。