
歯が弱いのは生まれつきだから、虫歯になるのは仕方ない…そんな思いを抱いたことはありませんか。確かに、歯が弱いという人の中には、親子そろって虫歯が多いという例もあります。ただ、歯の強さや弱さは、遺伝的要因と後天的要因の両方が関わる現象でもあり、対処できることもあります。詳しくご紹介いたします。
目次
歯が弱いのは生まれつき?
歯の質や形、唾液の性質などには遺伝的な要因が関係しています。しかし、生まれつき弱いことと、歯がずっと弱いことはイコールではありません。歯は、適切なケアや生活習慣の見直しによって、十分に守ることができるのです。
生まれつきに関わる遺伝的要因とは
歯の強さにまつわる生まれつきの要素には、エナメル質の質や厚み、歯並びなどがあります。
1.エナメル質の質や厚み
歯質とは歯を作るエナメル質や象牙質などの成分を指し、歯質の強さも、ある程度遺伝すると言われています。人によって、人体の中で最も固いと言われる組織であるエナメル質の密度や厚さが少しずつ異なりますが、エナメル質が薄めだと、酸や摩耗に対して脆弱になりやすいです。
虫歯にもなりやすい?
虫歯は、エナメル質から象牙質、そして歯髄(神経)へと進行します。つまりエナメル質の密度や厚さがなかったり、象牙質が弱ければ、虫歯になりやすく進行しやすいです。
2.歯列やかみ合わせ、顎の骨格
歯と顎の関係、歯の並び具合、噛み合わせた時にどの方向へ力がかかるかは遺伝的素因と関係することがあります。歯並びがアーチ状に整っておらず重なりがあると、歯ブラシで磨きにくく汚れが残りやすいため、虫歯にもなりやすくなります。
3.唾液の性質や量
虫歯の原因であるミュータンス菌は、お口の中に残る糖分を分解して酸性にし、エナメル質を溶かして虫歯にします。唾液には、口腔内のpHを中和し、菌の活動を抑える働きがありますが、その分泌量やカルシウム、リンなどの成分は個人差があります。遺伝的に唾液が少ない体質だと、自浄作用が働かず、虫歯リスクが高まりやすいと考えられます。
4.抗菌成分や免疫応答
口腔内の細菌を抑える酵素や抗菌成分であるラクトフェリン、唾液中の免疫成分などの働き方にも体質差があります。ラクトフェリンは歯周病菌が出した毒素と結合して、不活性化させる働きがあり、歯周組織の破壊を抑える効果があります。
こうした要因が重なると、歯が弱いと感じやすくはなりますが、遺伝だからどれも防げないというわけではありません。
弱くなる後天的な要因
遺伝的な素因だけでなく、日常生活の中の習慣が歯を弱くする要因となることは非常に多いです。今度は後天的な要因を挙げていきましょう。
過剰な糖分及び甘味の摂取
砂糖を含む飲食物を頻繁に摂ると、口の中が酸性に傾き、歯が溶けやすくなります。
酸性飲料の常習
酸性の強い炭酸飲料、果汁飲料などをよく飲む習慣があると、歯の表面が酸で侵され、耐久性が低下します。
強く磨きすぎたり、硬い歯ブラシを使うこと
ブラッシングの力加減が強すぎたり、硬い歯ブラシを使用していると、エナメル質が物理的に削られ、摩耗することがあります。
歯ぎしりや食いしばり
食事中の咬合力は、女性で40kg、男性で60kg程度ですが、睡眠中に歯ぎしりや食いしばりを行っていると、無意識下で250kg前後の咬合力がかかっています。毎日このような負担を強いている状態になると、微細な亀裂が入ったり、歯の内部に応力がかかって破壊が進むことがあります。
不規則な食生活や間食の多さ
食事以外で間食をちょこちょこ摂る習慣があると、お口の中が中性に戻る時間が少ないです。初期むし歯はダラダラ食べをせず丁寧なブラッシングを行っていれば、元に戻る確率が高いのですが、不規則な食生活では、歯を修復する再石灰化の時間が少なくなります。
口呼吸や唾液量の低下
口が乾燥すると、唾液の持つ自浄作用や中和作用が十分に発揮されず、虫歯リスクが上がります。
全身の健康状態
糖尿病などの慢性疾患、あるいは長期にわたる薬剤の服用が唾液分泌や免疫機構に影響を与えることがあります。
こうした後天的要因は、遺伝的な弱さに拍車をかける要素となります。遺伝を理由に無自覚に習慣を放置すると、歯がさらに脆くなる可能性が高まります。
歯質が持つ役割と弱さのメカニズム
歯の強さと弱さは、その構造と化学的性質によって決まる部分があります。
歯の構造と役割
歯の構造と役割についてまとめてみましょう。
構造名 | 位置と特徴 | 主な役割 |
---|---|---|
エナメル質 | 歯の最外層。人体で最も硬い組織。 | 細菌や酸、摩擦から歯を守るバリア。虫歯や摩耗の防御壁となる。 |
象牙質 | エナメル質のすぐ内側にあり、やや柔らかい層。 | 外部の刺激を歯髄へ伝える。エナメル質が薄いと知覚過敏が起こりやすい。 |
セメント質 | 歯根の部分を覆い、歯槽骨と接している。 | 歯を骨に固定する接着と支持の役割がある。 |
歯髄 | 歯の中心部。血管や神経が通る。 | 歯への栄養供給、痛みや温度などの感覚伝達を担う。 |
歯が弱るメカニズム
遺伝的にエナメル質が若干弱めという人は、ダメージを受けやすく、歯が弱くなっていしまいがちです。では、歯が弱るメカニズムについてもご紹介します。
細菌が糖を利用して酸を出し、pHが下がると、歯の表面からカルシウムやリンが溶け出す脱灰となってしまう。
唾液中のカルシウムやリンやフッ素などにより、溶けた部分は再石灰化されるが、このバランスが崩れると弱いまま残る。
噛む力やブラッシングの摩耗、歯ぎしりなどによって、エナメル質の表面に小さなひび割れや傷が増え、それが進行すると強度が低下する。
エナメル質の中の結晶構造が乱れていたり、撥水性が低いと、酸や浸食への耐性が落ちる可能性がある。
歯を守るためには
生まれつきだから無駄と思って歯のケアを放棄すると、より危険な状態になります。歯を守るために様々なことを組み合わせて実践していくと、遺伝的な歯の弱さをできるだけ軽減できます。
早期発見、定期検診
- 初期の脱灰や亀裂を早めに見つけて処置を行う
積極的な予防処置
- フッ素塗布をして歯質を強くする
- 溝の深い歯に対してシーラントで埋める
- 歯をクリーニングしてもらう
セルフケアの質向上
- 磨き方、回数、使用器具を見直す
リスク軽減への実行
- 甘い飲食を控える
- 酸性飲料を希釈して飲む
- 間食を減らす
症状が出る前からアプローチ
- 歯ぎしりがあれば歯科医院で相談しナイトガードを使用
- 口呼吸であれば鼻呼吸へと改善するように注意する
生活習慣の改善
- 十分な睡眠をとる
- ストレス管理を行う
- 全身疾患のコントロール
歯が弱い人に有効なケア方法
歯が弱いという自覚がある人は、次のケア方法を特に意識しましょう。
寝ている間は唾液量が減少し、細菌が繁殖しやすい環境です。就寝前のブラッシングには、デンタルフロス、歯間ブラシ、タフトブラシなどを使いましょう。歯ブラシだけでは届かない隙間をきれいにするでき、虫歯や歯周病の発生を抑えます。
強すぎる研磨剤を含む歯磨き粉は、エナメル質を削るリスクがあります。フッ素入りでも低研磨性のものを使うのがよいでしょう。
歯ぎしりや食いしばりの対策でナイトガードを装着すると、歯へかかる力が減ります。夜間、保護装置を用いることで歯の摩耗や亀裂の進行を防ぐことができます。
専門家によるスケーリングやポリッシングで歯の表面を滑らかに保ち、汚れやバイオフィルムを除去します。
家で使うフッ素入り歯磨き粉に加え、歯科医院での高濃度フッ素塗布などを活用することで、再石灰化を促進できます。
食生活や生活習慣で取り入れたいものや避けたいもの
歯は食べ物や生活習慣と密接につながっています。取り入れたいもの、反対に避けたいものなどをご案内します。
食習慣で取り入れたいもの
栄養素 | 主な効果 | 代表的な食品例 |
---|---|---|
カルシウム・リン | 骨や歯の主成分として蓄えられ、歯の硬さや強度を保つ | 牛乳、小魚、豆類、チーズなど |
ビタミンD・ビタミンK | カルシウムの吸収を助け、骨や歯の形成、維持をサポート | 魚類(鮭、いわしなど)、納豆、ブロッコリーなど |
マグネシウム・亜鉛 | 歯や骨のミネラル代謝を助け、再石灰化を促進 | 海藻類、牡蠣、ナッツ類など |
緑黄色野菜・食物繊維 | 唾液の分泌を促し、口腔内の自浄作用を高める | にんじん、ほうれん草、キャベツ、レタスなど |
硬めの食品 | 咀嚼を増やして唾液量を多くし、筋肉や骨格の刺激とする | ごぼう、れんこん、大根、りんごなど |
反対に避けたいものや習慣
- 頻繁な間食やスナック類
- 強い酸性飲料、果汁ジュース
- 就寝直前の飲食
- 夜更かし、寝不足
- ストレス過多
- 喫煙や過度な飲酒
全身の健康状態が歯に影響することも忘れてはいけません。例えば、糖尿病や骨粗しょう症などの基礎疾患があると、口内の免疫や組織修復能力が落ち、歯周病や虫歯の進行が早くなることがあります。
まとめ

歯が弱いのは生まれつきだから仕方ないという言葉は、ある意味真実を含んでいますが、それを言い訳にして、予防を怠ってしまうととても危険です。遺伝的な背景がある人ほど、早めに丁寧な対策をすると軽減できます。セルフケアを積み重ね、後天的な習慣や食生活などを見直し、歯科医院での予防処置や定期検診を活用しましょう。それにより、生まれつき歯が弱いかもしれない人も、健康で長持ちする歯を保つことは十分に可能です。